リネンコ日誌(13)文学フリマ東京41、御礼
ご来場ありがとうございました!
2025-11-23
文学フリマ東京41、無事終了しました。ブースにお運びくださった皆様、ご来場叶わずともお心をお寄せくださった皆様、本当にありがとうございました。覚悟していた以上の大盛況で、開場中まったく手が開かず、当日SNS実況をいっさいできなかった嬉しい悲鳴……「イベント参加が何よりのデジタルデトックスになる」という見事なオチがついた、個人サークル初出店でした。以下、二日後に書いてる日記です。長いよ。
朝起きて最後の準備作業、見本スタンドに貼る価格表のプリンタ出力とカッティング貼付など済ませる。出発直前に自宅であたたかい汁物と野菜中心の朝食を摂り、以後は飲まず食わずを覚悟する。案の定、非常食として携行したプロテインバーや菓子パンやチョコレートには最後まで手をつけられなかった。
出店者受付の開始時刻10時30分ぴったりに行くと大混雑だと聞き、重役出勤スムース入場を目がける。地下鉄とゆりかもめを乗り継いで東京ビッグサイトへ。慣れ親しんだ「船の科学館」駅が「東京国際クルーズターミナル」駅に改称されてるよ、とつぶやきかけてぐぐったら、なんと6年前の話であった……いきなり我が身の即売会ブランクを思い知らされる。大丈夫か。
11時頃に本部へ寄ってから自ブースまで辿り着き、近隣ブースにご挨拶。取りに行くべき荷物はすべて現着しており、わざわざ担いできたマグナカートの出番がいきなり消える。シマ中のつもりで測って買ってあった布をシマ角のブースを覆うように巻き付ける作業に一苦労。布用の重しを持ってくるの忘れた。ドリンクリップが長机にうまくハマらないのにも泣く。什器代わりにするつもりの印刷所からの直納箱も想定と違うサイズで、かなり不格好な販台に。番狂わせ続きだ。
まだ品出し陳列も終わらぬうちに開場アナウンスが流れ、ニコニコ拍手しながらも超焦る。真隣のブースは当日欠席のため、二つお隣のブースに声かけして、立ち読みコーナーまでダッシュで見本誌を提出に行ったのが、この日の唯一の離席となった。どれだけ慣れててもソロ設営って大変だなぁ、やっぱり早くから来て準備すべきだったよ……。
開場直後の来訪者は、長い長い一般入場待機列の最前方に並んでいた人々。ちょっとした差し入れを携えていたり、千円札と硬貨に特化したイベント用財布を装着していたり、開場配置図をバインダーに挟んで抱えていたり、下手な出店者より場慣れした一般入場の猛者である。ツラ構えが違う。かたやこちらは机上にガムテープなど放り出したまま、作業用軍手で商品を掴んで渡し「すいません、まだ開梱中で……あっ、そこの無料配布も適当に抜いて取ってってください!」と顎で使う有様。とはいえ猛者たちも「他にも回るべき店が山とあるので貴様と油を売っている暇など無い」と顔に描いてある。阿吽の呼吸で塩接客と塩挨拶を交わし、滞留時間5 秒みたいなハイスピードの頒布がどしどし進む。
と、noteの加藤貞顕さんがたまたま通りかかり、「エッ、岡田さんなんでこんなとこいるの、今ニューヨークじゃなかったの!?」と相当びっくりしていた。今は亡き「cakes」で私の文筆家デビューのきっかけをくれた人物だが、もう数年単位でご無沙汰、こちらもTales & Co.が企業出店していることを知らずにいた。絵看板に大きく「岡田育_リネンコ」と書いておいたのが、いきなり功を奏したかたち。
その後も何件か、看板を見て「岡田育さんって、あの岡田育さん!?」と驚かれる。おしゃれな屋号や凝ったサークル名もいいけど、やっぱり恥も外聞も衒いもなく個人名をデカデカと掲げておくと、認知が早いですね。
*
在庫管理表に正の字を書く間も無くお客が殺到し、売れ数がわからず、受け取った札もしまえず、追加分を面陳する時間も無いよう……! とワンオペ接客がワタワタしはじめた13時前、社会人留学仲間のバリキャリオタク・Aが会いに来た。あまりの手際の悪さを見兼ねて「売り子を手伝ったる!」とやにわにブース内に侵入してくる。規約的に大丈夫かと一瞬不安になったが、こんなこともあろうかと入場証と椅子は二つ申請してあったため、お言葉に甘えることに。入場待機列がはけたのか一気に活気を帯びた場内、しばらく二馬力で回せて助かった。
早い時間帯は、お名前を四度も五度も訊き直してさんざんな目に遭わせてしまった方などもいたが(ごめんなさい……)、14時台くらいからようやくまともに接客できるように。かつて古巣で一緒に働いた元同僚、異動になった元担当編集者、数年ぶりに会う偽兄や偽姉や偽弟、幼稚園時代からの幼馴染、大学の後輩、こちらから不義理を詫びに行くべき取引先、十数年ぶりに会う昔馴染みなどなど、みんないる。みんな来ている。エラルド島だ。
だいたい半数くらいが「じつは私たちもあっちで出店しているんですよ」と言うので驚きながら新刊交換をして、だいたい残りの半数が「じつは私たちもいずれ出店したくて、今回は視察です」と言うので、これまた驚く。その場で受けた質問には可能な限り答えたけれど、後日また改めて出店体験談などシェアしたい。
SNS上だけで繋がっている人が遊びに来てくださったりもして、「実体だ!」と感銘を受ける。目立つ位置に視認できるアイコンのワッペンを貼る方、口で名乗りながら名刺やノベルティを手渡して視覚的に相互の繋がりを示してくれる方、工夫さまざま。
普段は飲まない高糖度ミルクティーなどラッパ飲みして、昼食代わりとする。一息ついて場内を見回すと、なんだかやたらと着物の人が多い。アンティークも洋装ミックスも多い。いつもどこに隠れているんだよ和装民! 前掛け襷掛けで重いものどしどし運ぶ重労働をこなしていて見惚れるし、私など看板が着物姿なのに洋服を着てて肩身狭いまである。みんなでせーので和装縛りの隣接配置とかしてみたい。
15時を過ぎあたりから、私のことをいっさい知らないお客さんが足を止め、見本誌を手に取り、じっくり説明を聞き、その場の判断で財布を開いて新刊をお買い上げくださる、という事例が増えてきた。(2018年から2019年のエッセイである)『そのかねを』より、(2025年8月から10月の日記である)『紙日記』のほうが刺さる様子。両方新刊ですよと説明しても、「より新しい内容のほうをください」と言われがちで、興味深い。説明書きに記した「デジタルデトックス」というフレーズも引きが強い。「全然実践できていないからハウツー本じゃない、ただの日記ですからね!」と断りを入れて売る。
時間後半は、「昔から愛読しているが、ついさっきカタログを見て出店を知り、慌てて駆けつけた」というお客さんもいて衝撃を受ける。こんなに、これだけ、我ながらウザいほどしつこくしつこく告知していても、それでも届いてなかったなんてこと、ある!?……いやまぁ、あるのだろうね……。SNSのおすすめアルゴリズムが改悪され続ける昨今、「あの人は今」が追いづらくなっているのを思い知った。
こちらの人々も「最近Twitterで見かけないし、近況が気になっていたから」と『紙日記』を買っていく。なるほど、これが昨今の「日記本ブーム」の正体だろう。著者としては『そのかねを』のほうが売れると踏んで部数も多めに刷ったのだけど、初版は同数くらいでよかったかもしれない。今後ともイベント参加のたび、どんなに突貫でも近況本を出すのがいいみたいだ(※言うは易し!)。
*
この日、最大の反省点は、無料配布の折本を刷りすぎたこと。イベント日時を大きく刷り込んだ折本は、当日のうちに配りきらないと意味がない……のに、単価を下げることばかり考えて必要数の倍以上は刷ってしまった。全然減らない。無配はブース前で興味を持って足を止めてくれたお客さん、自分が手の届く範囲まで寄って来てくれた相手にでなければ、差し出すことができない。闇雲にポストに投函するチラシや道端で押しつけるポケットティッシュとはワケが違うのだ、という大原則を忘れていた。マジで大量に余らせて使い道がなく大変困っているので、少なくとも三冊目が出るまでは肌身離さず束で持ち歩き、ことあるごとに配り続けようと思う。
閉場後は『オトコのカラダはキモチいい』共著者である二村ヒトシさん主催の数十名規模の打ち上げに出席してから、こちらもイベントで何度もご一緒している紫原明子さんの打ち上げに二次会合流。次こそは合同誌に参加する約束をして別れる。自分のブースを一歩も離れられなかったが、さまざま献本や交換した本を搬出荷物にぎゅうぎゅうに詰め込んで送ったので、届いて開けて一つずつ読むのが楽しみ。


新刊2タイトルを約100部ずつ、計200冊ほど持参して、既刊込みで合計166冊ハケ、webカタログの「☆気になる!」数も52を記録した。ビギナーズラックという自覚はある(※謙遜ではなく長年の経験の重みをもって断言する、二度目以降は絶対ここまで景気好く売れない)けれども、いずれにせよ有難いことです。夏頃の情報解禁から楽しみに待っていてくださった方にも、当日ふらりと立ち寄って名も知らぬ書き手の本をお求めくださった方にも、改めて厚く御礼申し上げます。
感想は是非、ハッシュタグ「 #文学フリマで買った本 」をつけてSNSで拡散してくださいね。現物の写真投稿も大歓迎です。
たっぷりある残り在庫はゆっくり自家通販+書店卸販売に回します。そして今冬の東京滞在中、もう一回くらいは類似の即売会に参加したいものだよ。こちらもまた告知いたしますね。ニュースレター登録してお待ちください!





